ミステリの匣

「小さな本屋さん」地方では見なくなりましたねー。神田古本屋街にあるような間口一間半程で売場が六畳間程の店。
店の前には、持っていかれても構わないような陽に焼けた本が、背を青空に向けて売られていて、ガラスの引戸を入ると、褐色に染まる薄暗い店内は、天井までうず高く本が積まれている。中央には長手を二分するような大きな書架が店主を隠すように居座っている。
黒ずんだ孔開きの吸音板の張られた天井からは、笠付きの蛍光灯が下がり、ひび割れたモルタル塗りの床に淡い影を落としている。こんな「さびれた空間が売り」の本屋など、今どき商売にならないのだろうが、「ミステリ」こそこのような本屋が似合うのである。
天井際の高い書架には、一度も手にされることのないような箱入りの全集が並び、「本こそ並べるもの」というマニアの異論を立証している。この「ミステリの匣(はこ)」ともいえる「小さな本屋」の本は売られているというより、積まれているのだ。又、蔵書の少ない分探し甲斐があり、目ぼしい骨董品を追うような「壁面」を作り出している。「本」というのは「ミステリー」を生み出し、知識と想像力を養う薬(サプリメント)のようなもので、思考力を創りだすハコである。こんなハコのいっぱい詰まった本屋さん近くにないかな〜 本好きなんです。
(今度、髪の長いミステリな男が伺います・・・。