ポル・ポトの掌

旅行記ではないが、また一つのカンボジアを知ることができた。
舞台は1993年、国連による総選挙が行われた後の「アンコールの観光地となる前」のカンボジア。親友の死の理由を探るため、寂れたプノンペンに降り立つところから物語りが始まる。既に知ることは出来ない当時の街並みの情景をリアルに描写しながら、同時期の国内とリンクさせ、株価上昇の一途をたどる日本経済と、後のホリエモンを彷彿させる親友の言動が、後に訪れる「崩壊」を予期させている。株のことなど「It's aii Greek to me(ちんぷんかんぷん)」だが、株には「意思」や「性格」があるようで、この「技術」を習得することが、親友の「深層」にたどり着く足となり、シェムリアップの奥地に潜む「森の王」に近づくことになる。
この「森の王」は過去「オンカーに背く者を大量虐殺したとされる」民主カンプチアの首相で、ポル・ポトと呼ばれていた。この作品の核の一つがこの「誰も知らない」ポル・ポト像の記述にある。誰もが想像し難い姿に描くことで、「真のポル・ポト」をつくりだしているかのようだ。
アンコール遺跡のロケーションと「見たことのある」グランドホテルの描写がカンボジアへの旅情を書き立てていた。