ドゥオーモ

フィレンツェ

螺旋階段を登る建築で最も「夢のような登山」を楽しめるのは、サンタ・マリア・デル・フィオーレ(花の聖母教会)ではないだろうか。1296年、アルノルフォ・ディ・カンビオの設計で建設が始まったイタリア・ゴシック(ローマ・カトリック)の大聖堂である。
クーポラ(ドーム)部分は、1418年の設計競技でフィリッポ・ブルネッレスキの案が採用され、1420年から15年をかけ、地上55mのドラム部分から100mを越す天空に聳え立つ、推定重量2万5000tのラグビーボールの半分を伏せたような、石積みでは世界最大の大ドームが完成した。これは古今最も壮大な建築作品の一つに数えられるばかりでなく、15世紀フィレンツェの富強と意欲、新しい設計理念、創造的な建築家の出現を劇的に示している。
聖堂脇のクーポラ入口からは、暗い古城に入るのように階段を上ると、螺旋階段へと続く。ショートケーキを積み上げただけのような三角ピースの石段で、その場で足踏みしながら身体を回転させていくように狭いシリンダー内をグルグルと上る。形状の異なる階段をいくつか踏破すると、聖堂内を見下ろすアトリウムのキャットウォークに出る。(ここは天井画がよく見える)半周ほど移動するとドームの階段室へ入る。二重殻構造の間の木の梁が飛ぶ屋根裏のような階段通路をRを描きながら上る。壁面を見るとレンガが斜めに螺旋状に積まれているのが解る。工場の点検通路のような行き止まりまで到達すると、ドームの頂部へ向う「登山階段」が待っている。「虹を登る」ようにドームの中心に身体を向けた状態で上って行く。(地上90m近くにいることを忘れる)最後は展望ステージの床下通路に入り、潜水艦のハッチへの階段を抜けるとそこは、フィレンツェオレンジに染まった街並みを見渡す展望デッキである。(延べ464段)日本語の相合傘サインのらくがきが溢れるその頂塔部(ランタン)も、やはりブルネッレスキの案で、彼の死後1461年に完成している。ここはまさに「天空」と呼ぶに相応しく、ラピュタの機械部をへて地上に出たかのような「夢の世界」を具現している。(涙、、
地上より見上げるその姿はまさに「巨大な城」で、このときほど「本物のデカさ」を感じたことはなかった。写真で見るドゥオーモなんて「あれは別モノだよ」と云いたくなるような、全くイメージの異なる大建築であった。
(完成を見なかったブルネッレスキは今、傍らで石の目となって頂部を眺めている。