階段のない神殿

ギリシア・ローマ時代の建築は階段状になった基壇の上に造られることが多かった。こうした様式は建物を地表面から一段高いところに建て、「高みの景観」をつくり出すことにあるが、それ以前に、階段は天界への架け橋の象徴であり、異なった高みの世界の間を仕切り、またつなぐという意味が含まれていた。すなわち、現実世界と不可侵な聖霊の世界の間に掛け渡されたものとして、「階段」という「形」が創造されたのである。
ところが、アッラーの象徴としてつくられたメッカのカーバ神殿は、基壇の上に造られた「高みの建築」であるが、床へ上がる階段がないのである。伝説によると預言者ムハンマドマホメット)には、他の人には見えない梯子が見え、彼はそれを登って神に到達することができたと云われている。もともとカーバ神殿は、内部に入るためのものではなく、ハッジ(巡礼)の際、周囲を巡ることと、イスラームの礼拝の軸となるための位置を示すもので、神そのものなのである。大きさは間口12m、奥行き10m、高さ15mの全くの直方体で、金の装飾帯のある黒い布(キスワ)で覆われている。(毎年掛け替えられているらしい)南東の角には、イスラームの象徴である「黒石」がはめ込まれ(これは隕石と云われている)この階段のない神殿は、その名の通り入り口を閉ざしたままベールに包まれている。そのキュービックなスタイルは、ラピュタの心臓部の巨大飛行石と同様に、世界を動かしているのだ。
イスラームでないと2km先から近づくことは出来ません。しっかり日本語で書いてある。