三島由紀夫の家

東京都大田区南馬込4丁目32-8に白亜の館が建っている。
昭和34年5月に竣工した「ヴィクトリア朝コロニアル様式とされる」文豪三島由紀夫の私邸である。三島がこのような家を建てることを思いついたのは、ニューヨーク滞在中に親しんだ「アグリー・ヴィクトリアン」という室内装飾様式からと云われるが、そもそも「ヴィクトリア様式」とは、建築、家具、装飾などにおいて重量感があり、精巧かつ装飾過多の英国様式のことである。しかし、三島邸は決して装飾過多ではない。背の高い円形破風窓が並び、平滑な仕上りと、垂直性が明快で、むしろ「アール・デコ」すら感じとれる。モダンな二十世紀様式の洋館である。ファサード(正面)を特徴付けているのは、中央のバルコニーである。「ロミオとジュリエット」を彷彿させる小演劇空間が設えてある。劇作家としても才のあった氏らしい装飾であるが、「演説」の舞台と見えてしまうのは、自決前の屋根の上に立つ姿のイメージからなのか。
「英国式」でありながら西欧風な明るさが漂うのは、庭のつくり(小道具)によるところが大きい。地中海好きな氏が、「イタリーから持ち帰ったアポロ像が春夏秋冬、まっ裸で外気にさらされている姿をうらやむ」と残しているように、大理石のアポロ像を始め、石造りのベンチや欄干など(「階段」もいっぱいある)が、つる植物に囲まれているからだ。スペイン南部で見られる「生垣から覗く邸宅」をつくりだしている。(いい・・。)
(アジア好きも全く同感で、一年中裸で過ごせるところ(パティオのある家)へ移りたいくらいである。