あしながおじさん

建築家中村好文氏の「住宅読本」の中に、「住宅とは何か?」を考える上でのヒントとなる「よい記事」があります。ジュディ・アボットの「あしながおじさん」です。
17歳まで孤児院で育てられ、いわゆる普通の住宅の内部とそこで営まれる普通の家庭の暮らしを知らなかった彼女の目に、住宅というものがどのように見えたかが描かれています。孤児院を「ホーム」と呼ぶことに違和感を覚えていたかもしれない、優れた感受性の持ち主の彼女が、そのような生い立ち、つまり「家なき子」だったからこそ、住宅とそこの暮らしに「備わっていなければならないもの」が見えたに違いないのです。それは主人公のジュディ・アボットが友人の家に泊まり客として訪れていたく感激し、その家の様子を綴った手紙の内容でした。
『・・・ここは子供を育てるには素晴らしくいい家です。かくれんぼするには丁度いい薄暗い隅っこがあるし、ポップコーンをつくることが出来る暖炉があるし、退屈な雨の日には跳び回れる格好の屋根裏部屋があるし、それから階段にはスベスベした手すりが付いていて、それを滑り下りた端っこのところには、思わず撫で回したくなる丸パンを押しつぶしたような形の「ぎぼし」があるし、・・・そうそう、それにすっごく大きくて陽当りのいいキッチンだってありますよ。そこには13年間もこの家に家族同様に暮らしている太っていて、親切で、ニコニコ顔の料理人がいて、いつも子供たちのために練ったパン粉のかたまりをとっておいて、焼かせてくれるんです。こんな家をみたらあなただってきっと、もう一度子供のときに帰りたくなるはずですよ〜。』 (お手紙ありがとう、、
ここに住まいに必要な条件が隠れていそうです。
(感受性豊かな女の子から「自分に来た手紙」として読めるところが、おじさんの心をくすぐるところです。